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坂の町で老いるということ
先日、入船町の坂道を上っていたときのことです。手すりにつかまりながら、ゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ歩いているお婆ちゃんに出会いました。声をかけると、「病院の帰りなんだけど、この坂がね、年々きつくなるのよ」と、少し恥ずかしそうに笑っておられました。
私はその笑顔を見ながら、胸の奥がぎゅっと締めつけられる思いがしました。小樽の美しい坂道。観光客の方が「絵になる風景」と写真に収めるあの坂は、ここで長く暮らしてきた方にとっては、年を重ねるごとに立ちはだかる壁になっていくのです。
小樽に生まれ、小樽で育ち、小樽で働き、そして小樽で老いていく。そんな当たり前の人生が、当たり前に続いていける町であってほしい。これは、私が市議会議員として最も強く願っていることの一つです。
地域包括ケアとは何か——難しい言葉を解きほぐす
「地域包括ケアシステム」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。行政の資料によく出てくる言葉ですが、正直、少し堅苦しくて、何のことやらと感じる方も多いと思います。
簡単に言えば、こういうことです。
年を重ねても、住み慣れた家で、住み慣れた地域で、自分らしく最後まで暮らしていけるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援を、ひとつながりで支えていこう——という仕組み。
病院だけでは支えきれない。施設だけでも足りない。家族だけに背負わせるのはあまりに重い。だからこそ、お医者さん、看護師さん、ケアマネジャーさん、ヘルパーさん、ご近所さん、町会、ボランティア、そして行政。みんなで少しずつ支え合う。そういう考え方です。
言葉にすると当たり前のようですが、これを本当に機能させるのは、実はとても難しいことなのです。
小樽の現実——数字が語ること
皆さんは、小樽市の高齢化率をご存じでしょうか。
小樽市の高齢化率はすでに約40%を超え、全国の中核都市の中でもトップクラスの高さです。市民のおよそ2.5人に1人が65歳以上。75歳以上の後期高齢者だけでも、人口の2割を超えています。
この数字を、どう受け止めればよいでしょうか。悲観的な話として語られることも多いですが、私はこう思うのです。
小樽は、日本の未来を先に歩いている町だと。他のまちがこれから直面する課題に、私たちは一足先に向き合っている。ならば、ここで良いモデルをつくれば、それは全国の希望になる。そう考えれば、少し背筋が伸びるような気がしませんか。
見過ごせない課題
- 独居高齢者世帯の増加——「見守り」の網が追いついていない地域がある
- 坂道と冬の雪——移動そのものが大きな負担になる
- 買い物難民——近所の商店が減り、スーパーまで歩けない方が増えている
- 介護人材の不足——支える側の現場も限界に近い
顔の見える関係こそが小樽の宝
とはいえ、私は小樽の底力を信じています。
先日、ある町会の役員さんとお話ししました。その方は、冬の朝、同じ通りに住む一人暮らしのお年寄りの家の前を必ず通り、灯りがついているか、新聞が溜まっていないか、さりげなく確認してから仕事に向かうそうです。「別に大したことじゃないんだ」と笑っておられましたが、私はこれこそが地域包括ケアの原点だと思いました。
銭湯で「最近あの人、見ないね」と話題になる。商店街の店主が「今日はいつもの時間に来ないな」と気にかける。民生委員さんがお茶を飲みに立ち寄る。こうした「顔の見える関係」が、小樽にはまだ生きています。
大都市では失われつつあるこの温かさを、私たちは当たり前のものと思ってはいけないのです。制度で全てを支えようとすれば必ず限界が来ます。しかし、制度と地域の力が噛み合えば、小樽ならではのケアの形がつくれるはずです。
これから取り組みたい具体策
議員として、私が市政に働きかけていきたいことを、いくつか率直にお伝えします。
1. 「歩いて行ける」生活圏の再構築
地域包括支援センターや身近な相談窓口を、もっと生活圏に近い場所に。中心部に一つあるだけでは、入船や奥沢、塩谷、銭函の方々にとっては遠すぎます。出張相談や巡回型の仕組みを強化すべきだと考えています。
2. 冬の生活支援の抜本的強化
除雪は小樽の高齢者福祉の最重要課題です。玄関前の雪かき一つで、通院できるかどうかが決まる方がたくさんいらっしゃいます。ボランティアだけに頼るのではなく、有償の除雪サポート制度の拡充や、地域ごとの助け合いマップづくりを進めたい。
3. 医療と介護の連携を「見える化」する
病院から退院したあと、どこに相談すればいいか分からず、ご家族が途方に暮れるケースを何度も見てきました。ICTを活用した情報共有の仕組みづくり、そして何より、各専門職の方々が顔を合わせて話せる場づくりを後押ししたいと思います。
4. 介護現場で働く方々への支援
支える人を支えなければ、この仕組みは続きません。処遇改善、研修機会の確保、そして「ありがとう」が届く社会的評価の向上。市としてできることは必ずあります。
5. 認知症への理解を町全体に広げる
認知症サポーター養成講座を、学校・企業・商店街にもっと広げていきたい。認知症になっても外出できる、買い物できる、電車に乗れる。そんな優しい町は、認知症でない人にとっても必ず暮らしやすい町になります。
最後に——私が小樽で老いたい理由
なぜ、私はこれほど小樽にこだわるのか。
海の匂いがあって、汽笛が聞こえて、石造りの倉庫があって、坂の上から見下ろす夜景があって、少し歩けば顔見知りに会える。春には天狗山の桜、夏には潮まつり、秋には静かに色づく山々、冬には雪あかりの路。この四季のうつろいの中で、人が年を重ねていくこと。それ自体が、どれほど豊かなことか。
私は、自分自身がいつかこの町で老いていく一人です。そのとき、「小樽で年を取ってよかった」と心から思えるかどうか。それは、今の私たちが何をするかにかかっています。
誰もが安心して老いられる町は、若い世代にとっても、子育て世代にとっても、必ず暮らしやすい町になります。高齢者福祉は、決して「お年寄りだけのための政策」ではないのです。それは、小樽の未来そのものへの投資です。
あのお婆ちゃんが坂を上りきった先に、温かいお茶と、見慣れた家族の顔と、信頼できる相談相手が待っている。そんな当たり前の光景を守るために、私は今日も市役所の廊下を歩き、現場に足を運び、皆さんの声に耳を傾け続けます。
どうか、皆さんの身近にある「困りごと」、気になっている「地域の変化」を、私に教えてください。小さな声の一つひとつが、必ず次の政策につながります。小樽の未来は、小樽に暮らす私たち自身の手の中にあるのですから。
