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観光まちづくり

運河だけじゃない小樽の魅力

運河の向こう側にある、もうひとつの小樽

先日、市外から来られたご夫婦に道を尋ねられました。「運河は見てきたんですけど、このあと、どこへ行けばいいでしょうか?」。私は少し考えて、手宮の総合博物館と、祝津のにしん御殿、それから水天宮から見る夕暮れの街並みをおすすめしました。帰り際、奥さまがぽつりと「小樽って、半日では足りないのね」と笑ってくださった。あの一言が、ずっと私の胸に残っています。

小樽と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは運河でしょう。ガス灯の灯る石造倉庫、ゆっくりと流れる水面——もちろん、あれは小樽の宝です。しかし、私はいつも思うのです。運河は小樽の「入口」であって、「全部」ではない、と。

皆さんは、ご自身の暮らすまちの魅力を、ゆっくり歩いて確かめたことがあるでしょうか。

数字が示す「観光のいま」と課題

小樽市の観光入込客数は、コロナ禍前の令和元年には年間約800万人に達していました。その後大きく落ち込みましたが、近年は回復基調にあり、特に外国人宿泊客数は過去最高水準に戻りつつあります。ありがたいことです。

しかし、少し立ち止まって数字の中身を見てみると、気になる点もあります。

  • 来訪者の滞在時間が短く、「日帰り・運河周辺のみ」で帰る方が多い
  • 観光消費額のうち、地元事業者に還る割合がまだ十分とは言えない
  • 繁忙期と閑散期の差が大きく、年間を通じた雇用が安定しづらい
  • 観光客の集中により、堺町通り周辺の生活環境に影響が出ている

つまり、「人は来ているけれど、まちの隅々まで、暮らしの隅々までは潤っていない」という状況があるのです。これは、観光に携わる方々が努力を怠ってきたからではありません。構造の問題であり、まちぐるみで考えるべきテーマだと私は捉えています。

観光とは、来てくださった方の思い出をつくる営みであると同時に、そこに暮らす人の生活を支える産業でもあります。この両輪が噛み合ってこそ、持続可能な観光まちづくりになるのではないでしょうか。

地域に還る観光へ——私が考える三つの提案

では、具体的にどうすればよいのか。私は市議会の場でも、また地域の方々との対話の中でも、次の三つの方向性を大切にしたいと考えています。

一. 「エリア分散」で、まち全体を舞台にする

運河・堺町エリアだけでなく、手宮、祝津、塩谷、朝里、天狗山麓——それぞれに異なる顔があります。手宮には鉄道と港湾の歴史が、祝津にはにしん漁で栄えた暮らしの記憶が、塩谷には海と文学の静けさが、朝里には温泉と自然があります。

これらを個別のスポットではなく、「もう一泊したくなる物語」として束ねる仕掛けが必要だと考えます。たとえば、エリアを巡る周遊パスや、地元ガイドによる小さなツアーの充実。市としても、観光案内の多言語化と情報の一元化に、もう一歩踏み込んで取り組むべきでしょう。

二. 「食と産業」で、消費を地元に循環させる

小樽には、水産加工、ガラス、スイーツ、ワイン、地酒、そして近年注目される地ビールと、豊かな「ものづくり」の裾野があります。観光客の方々が落としてくださるお金が、こうした地元事業者にきちんと流れる仕組み——たとえば地元産品を使った認証制度や、生産現場を訪ねる体験型観光(ガストロノミーツーリズム)の推進は、十分可能です。

「お土産を買う」から「生産者に会いに行く」へ。これは観光客にとっても、より深い小樽体験になるはずです。

三. 「暮らしの質」を守る観光へ

一方で、観光客の集中は、ごみ、交通、騒音といった形で、地元の皆さんの暮らしに負担をかけることもあります。インバウンドが戻った今、「オーバーツーリズム」という言葉を、小樽でも他人事と思わずに議論すべき時期に来ています。

たとえば、観光客にも応分の負担をお願いする宿泊税の議論、繁忙期の交通規制、生活道路への配慮——。市民の暮らしを守ることが、結果として「気持ちよく迎えられるまち」をつくり、観光の質も高めると私は信じています。

暮らす人が誇れるまちは、訪れる人も幸せにする

私は小樽で生まれ育ちました。坂道を自転車で下るときの、頬を切る海風の匂い。冬の夜、雪に吸い込まれていくような静けさ。学校帰りに寄り道した商店街のおばちゃんの声。そういうものが、私という人間をつくってきたのだと、歳を重ねるほどに感じます。

人口減少、少子高齢化——小樽が抱える課題は、決して小さくありません。正直に申し上げれば、ごまかしのきかない現実が、私たちの目の前にあります。だからこそ、観光という産業を、一部の華やかな景色だけで語るのではなく、地域の経済と雇用、そして誇りを支える「地力」として、育てていきたいのです。

観光まちづくりのゴールは、「観光客を増やすこと」ではありません。そこに暮らす人が、自分のまちを好きでい続けられること——私はそう考えています。暮らす人が誇れるまちは、きっと訪れる人も幸せにする。順番を間違えてはいけない、といつも自分に言い聞かせています。

最後に、皆さんに問いかけさせてください。あなたにとって、小樽の「もうひとつの魅力」はどこにありますか。運河ではない、観光ガイドには載っていないかもしれない、あなただけの小樽の風景。ぜひ、聞かせてほしいのです。

市議会の仕事は、立派な政策文書を書くことではなく、こうした一人ひとりの声を、まちの未来につないでいくことだと私は思っています。これからも、歩いて、聞いて、考える——その繰り返しを続けてまいります。小樽というまちを、次の世代に、胸を張って手渡すために。

中村よしひろ

中村よしひろ

小樽市議会議員

1972年小樽市生まれ。市民の声を市政に届けるため、日々議会活動と地域活動に取り組む。小樽の歴史・文化・自然を愛し、住み続けたいまちづくりを目指している。