目次
ある在宅看取りの現場から
先日、市内のあるお宅にお邪魔する機会がありました。90歳を超えたお母様を、70代の娘さんがご自宅で介護されているご家庭です。訪問診療の先生、訪問看護師さん、ケアマネジャーさんが代わる代わる訪ねてきて、お母様は住み慣れた海の見える部屋で、静かに穏やかな時間を過ごしておられました。
娘さんがぽつりとおっしゃった言葉が、今も私の胸に残っています。
「母は若い頃から、小樽の海と汽笛の音が大好きだったんです。病院のベッドじゃなくて、この家でその音を聞きながら最期を迎えさせてあげたい。それが、私にできる最後の親孝行だと思っています」
——「最期まで自分らしく」。言葉にすれば簡単ですが、それを支える仕組みは、決して簡単ではありません。今日は、小樽の在宅医療について、私が日頃考えていることを皆さんにお伝えしたいと思います。
小樽の高齢化は「全国より20年先」を走っている
まず、現実の数字を見てみましょう。小樽市の高齢化率(65歳以上の人口比率)は、約41%。これは全国平均(約29%)を10ポイント以上上回り、政令市・中核市を含めても全国でも有数の水準です。
よく「日本の高齢化のピークは2040年」と言われますが、小樽はすでにその未来を先取りして生きている街だと言っても過言ではありません。
これを「大変だ」とだけ捉えるのか、それとも「全国のモデルになるチャンスだ」と捉えるのか。私は後者でありたいと思っています。小樽で成功した仕組みは、必ず日本中の地方都市のお手本になります。だからこそ、ここで知恵を絞ることに大きな意味があるのです。
小樽市のデータ(概数)
- 人口:約10万5千人
- 高齢化率:約41%
- 75歳以上の後期高齢者:約2万5千人
- 単身高齢者世帯:市内世帯の約2割
在宅医療を支える三本柱——医師・看護・介護
在宅医療というと、「お医者さんが家に来てくれること」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、三つの柱が揃って初めて成り立ちます。
1. 訪問診療・訪問看護
定期的にご自宅を訪ねて診療する医師、点滴や処置を行う看護師。小樽市内にも在宅療養支援診療所が複数あり、休日や夜間の対応も担っていただいています。頭が下がる思いです。
2. 介護サービス
ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイ。ご家族が介護で疲弊しないためにも、「ちょっと一息つける時間」をつくる仕組みは欠かせません。
3. 地域のつながり
意外と見落とされがちなのが、ご近所や町会の存在です。「最近、あのお宅の電気が点かないね」と気づいてくださる方がいること。これも立派な在宅医療のインフラだと、私は思っています。
坂の街・小樽ならではの課題
小樽の美しさは、海と山が近く、坂道が織りなす風景にあります。私もこの街並みが大好きで、どこを歩いても絵になる景色に出会えるこの街を誇りに思っています。
しかし、在宅医療の現場から見ると、この「坂」が大きな壁になることがあります。
- 救急車やストレッチャーが玄関まで届かない家が多い
- 冬場、訪問看護師さんが車を停める場所の確保が難しい
- 家族が買い物や通院のたびに階段と坂を上り下りする負担
- 除雪のタイミング次第で訪問が遅れることもある
私は、ある訪問看護師さんから「冬の朝、長靴に雪を詰めながら坂を上って行くんです」というお話を伺ったことがあります。その献身に、私たち行政は何で応えられるでしょうか。
私が考える、これからの三つの提言
提言1:訪問医療スタッフへの冬季支援を
訪問診療・訪問看護を担うスタッフの移動は、小樽の冬では命がけです。優先的な除雪ルート指定、駐車スペースの確保、そして冬季の訪問にかかる経費への市独自の支援を検討すべきです。医療従事者を守ることは、結局は患者さんを守ることにつながります。
提言2:「地域医療・介護マップ」の見える化
どこに訪問診療所があり、どの事業所が夜間対応をしてくれるのか。ご家族が困ったときに最初に見るべき情報が、市内でまだ十分に整理されていません。紙でも、スマートフォンでも見られる「我が家の在宅医療ガイド」を町会単位で配布することを提案したいと思います。
提言3:「人生会議」を支える市民教室
最近、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」、通称「人生会議」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、「もしものときに、自分がどんな医療やケアを受けたいか」を元気なうちから家族や医療者と話し合っておく取り組みです。
難しく聞こえますが、要は「お父さんは最期、どうしたい?」という家族の会話のことです。この話し合いを気軽にできる市民教室や相談窓口を、公民館や総合福祉センターで定期的に開く——そんな場づくりを、市として進められないかと考えています。
皆さんにお聞きしたいこと
もし自分や大切な家族が病気になったとき、どこで、誰と、どう過ごしたいですか?その答えは、人それぞれ違っていいのです。大切なのは、「選べる小樽」であること。病院か、施設か、自宅か——どれを選んでも支えてもらえる街でありたいと、私は願っています。
「最期まで小樽で」と言える街へ
私はこの街で育ちました。海を見ながら歩いた通学路、祖父母と手をつないで渡った運河の橋、ストーブの前で聞いた昔話。小樽の風景は、人生の節目節目に、いつもそこにありました。
だからこそ思うのです。私たちが老いていくとき、最期の時間を迎えるとき——その場所もまた、慣れ親しんだ小樽の空の下であってほしい、と。
病院で最期を迎えることが悪いわけではありません。それもまた、尊い選択です。ただ、「家で過ごしたい」と願った人が、その願いを諦めなくていい街。それが、高齢化のトップランナーである小樽が目指すべき姿ではないでしょうか。
医療者、介護者、ご家族、ご近所、そして行政。みんなで少しずつ力を出し合えば、きっとできます。小樽には、お互いを気にかけ合う温かさがあります。この街の人情こそが、何よりの財産だと私は信じています。
「最期まで、小樽で、自分らしく」。
その言葉が当たり前になる日まで、私は現場に通い、皆さんの声を聴き、議会で発言し続けます。どうか、皆さんの身の回りで感じたこと、困っていることを、遠慮なく私にお聞かせください。それが、私の原動力です。
今日も、海の見える街で。
中村よしひろ
