駅のホームで見送った、あの日の後ろ姿
先日、小樽駅で高校生の娘さんを見送るお母さんに出会いました。「東京の大学に受かってね、嬉しいんだけど、たぶんもう帰ってこないと思うんですよ」——そう笑いながら、目はうっすら潤んでいました。私はかける言葉を探しましたが、うまく見つけられませんでした。
この光景は、小樽ではごくありふれたものです。春になれば、キャリーケースを引く若者たちが札幌行き、そして本州行きの列車に乗り込んでいきます。進学、就職、憧れの都会での暮らし——その一つひとつが、彼らの人生にとって大切な選択です。私はそれを止めたいわけでも、否定したいわけでもありません。
ただ、問いたいのです。「帰ってきたい」と思ったとき、小樽は帰ってこられるまちになっているでしょうか、と。
数字が語る、小樽の現実
少し数字の話をさせてください。小樽市の人口は、ピークだった1964年の約20万7千人から、現在はおよそ10万6千人へと、ほぼ半分になりました。そして2024年、ついに10万人の大台が目前に迫っています。中でも深刻なのが、20代から30代の若年層の流出です。
国勢調査をもとに見ると、15歳から29歳の若者の社会減(転出が転入を上回る数)は、毎年数百人規模で続いています。これは、毎年高校を一つ、まるごと失っているような規模なのです。
人口が減ること自体が「悪」なのではありません。問題は、まちの活力を支える若い世代の選択肢が、ここ小樽に十分あるかどうか。「出ていくしかなかった」のか、「選んで出ていった」のか——この違いは、とても大きいと私は考えています。
「帰りたい」を「帰れる」に変える三つの柱
では、どうすれば若者が「小樽に帰りたい」「小樽に移り住みたい」と思えるまちになるのか。私は、UIJターン促進には三つの柱が必要だと考えています。
① 「仕事」の見える化
意外に思われるかもしれませんが、小樽出身の若者に「地元に戻って働きたいか」と尋ねると、「戻りたい気持ちはある」と答える人は決して少なくありません。ところが続けて「じゃあどんな仕事があるか知っている?」と聞くと、多くが「わからない」と答えるのです。
小樽には、水産加工、観光、ガラス工芸、硝子器具製造、物流、IT関連、医療・福祉——多様な仕事があります。けれど、その情報が若者に届いていない。これは企業側の努力だけでは限界があります。市として、小樽で働くという選択肢を「見える化」する仕組みが必要です。
- 高校生・大学生向けの「小樽ではたらく」情報サイトの開設
- Uターン希望者と市内企業をつなぐマッチングイベントの定期開催
- 市外在住の小樽出身者に向けた、求人情報のメルマガ配信
② 「住まい」のハードルを下げる
二つ目は、住む場所の問題です。小樽には空き家が増え続けていますが、一方で若い世帯が「ちょうどいい賃貸物件がない」と悩んでいる現実があります。老朽化した空き家をリノベーションして若者向け住宅として活用する取り組みを、もっと市として後押しできないか。
家賃補助、引っ越し費用の支援、空き家リノベーション補助金——他の自治体ではすでに成果が出ている政策もあります。小樽の斜面地という独特の地形も、工夫次第で「眺望の良い暮らし」という魅力に変えられるはずです。
③ 「つながり」を途切れさせない
そして三つ目、これが一番大切かもしれません。小樽を出ていった若者と、まちとのつながりを途切れさせないこと。
首都圏在住の小樽出身者を対象にした「おたる応援団」のようなネットワーク、ふるさと納税を通じた継続的な関係づくり、オンラインでの市政報告会——離れていても小樽を身近に感じられる仕掛けがあれば、人生のある局面で「そろそろ戻ろうかな」と思ったとき、スムーズに帰ってこられるのではないでしょうか。
小樽にしかない「仕事の種」を育てる
雇用創出というと、どうしても「大きな企業を誘致する」という発想になりがちです。もちろんそれも大切ですが、私はそれ以上に、「小樽の資源を活かした仕事の種」を育てることに可能性を感じています。
たとえば、小樽の水産業と加工技術は、全国に誇れる財産です。ここに若い感性とデジタル技術を掛け合わせれば、新しいブランド、新しい販路、新しい雇用が生まれます。実際、市内では若手が立ち上げた水産加工のEC事業や、小樽の素材を使ったクラフトビール、観光と組み合わせた体験型ビジネスなど、小さくても光る挑戦が始まっています。
こうした「小さな起業の芽」を、市が本気で応援する。創業支援補助金、空き店舗活用、メンター制度、低利融資——点ではなく面で支える仕組みが必要です。
一つの大企業に雇用を頼る時代は、もう終わりました。これからは、十人、二十人の雇用を生む小さな事業が、まちのあちこちで花開く——そんな経済の姿を、私は小樽で実現したいのです。
若者と、もう一度このまちで
私はなぜ、こんなにも小樽にこだわるのか。それはやはり、このまちが好きだからです。
運河沿いを歩けば、石造りの倉庫が百年前の記憶を今も静かに語りかけてきます。坂を上れば、港が宝石を散らしたように輝いて見えます。朝市で「今日はホッケがいいよ」と声をかけてくれるおじさん、祭りで神輿を担ぐ仲間たち、冬の雪あかりの路で見知らぬ観光客と交わす笑顔——これら全部が、お金では買えない小樽の宝物です。
この宝物を、次の世代に手渡したい。手渡すためには、受け取る若者がここにいなければならない。だから私は、UIJターン促進と雇用創出に、全力で取り組みたいのです。
最後に、小樽を離れて暮らしている方々にも伝えたい言葉があります。あなたが小樽を思い出してくれるその気持ちは、まちにとって何よりの財産です。いつか戻ってきたいと思ったとき、「戻れるまち」であるように——私たちはこれから、本気でこのまちを変えていきます。
あなたは、小樽の未来にどんな風景を描きますか。ぜひ聞かせてください。市民の皆さんの声こそが、政策の出発点なのですから。
