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環境・景観

ゼロカーボン小樽への課題——冬の暖房費と再生可能エネルギー

灯油タンクの前で考えたこと

先日、ある高齢のご婦人のお宅を訪ねたとき、玄関先で立ち止まってしまいました。家の脇に設置された灯油タンクを、彼女がじっと見つめていたのです。「中村さん、今年の冬、越せるかしらね」——その一言が、今も私の胸に残っています。

年金暮らしのご夫婦。ひと冬の灯油代だけで十数万円。食費を削り、お風呂の回数を減らし、それでも「寒い北海道で凍えずに過ごしたい」というささやかな願いを守るために、家計をやりくりしておられる。これが、私たちの街・小樽の冬の、ひとつの現実です。

私は小樽で生まれ、小樽で育ちました。運河沿いを歩けば潮の香りがして、天狗山から見下ろす街の灯りはまるで宝石箱のよう。この景色を愛さずにはいられません。だからこそ、この街で暮らす一人ひとりの生活を、暖かく守りたい。今日はそんな思いを込めて、「ゼロカーボン小樽」というテーマについて、皆さんと一緒に考えてみたいのです。

小樽の冬、暖房費という重い現実

北海道の家庭が年間に使うエネルギーは、全国平均の約1.5倍と言われています。その多くが冬の暖房に消えていきます。小樽市内でも、灯油を主な熱源としているご家庭が依然として多数派です。

小樽の冬を数字で見ると

  • 年間暖房期間:およそ11月〜4月の半年間
  • 一般家庭の冬期の灯油消費量:1,000〜1,500リットル前後
  • 灯油価格が1リットル100円を超える昨今、暖房費だけで年間10万〜15万円以上の負担
  • 市内の高齢者単身世帯の割合は年々増加傾向

原油価格は国際情勢に左右され、私たち市民には手の届かないところで決まっていきます。「寒さは我慢するもの」——かつて北海道人はそう笑って言えました。しかし、健康を害するほどの寒さは、もはや我慢の範疇を超えています。実際、冬場のヒートショックによる事故は、暖かい地域よりも北海道のほうが深刻だというデータもあるのです。

「寒い家」が奪うもの

寒い家は、家計だけでなく健康も奪います。室温が低い家で暮らす方は、血圧が高くなりやすく、脳卒中や心筋梗塞のリスクも上がる。これは医学的にもはっきりと示されていることです。暖房は贅沢ではなく、命を守るインフラなのだと、私は考えています。

ゼロカーボンって、本当にできるの?

国は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を掲げました。小樽市も「ゼロカーボンシティ」を宣言しています。しかし、正直なところ皆さんはこう感じていらっしゃるのではないでしょうか。

「立派な目標だけど、雪深い小樽で本当にできるの?」
「太陽光パネルを載せたって、冬は雪に埋もれるでしょう?」
「結局、お金のある家だけの話じゃないの?」

こうした疑問は、どれも的を射ています。私自身、理想論だけで「ゼロカーボン」を語るつもりはありません。小樽には小樽の気候があり、歴史的建造物を抱える街並みがあり、坂の多い地形がある。全国一律の処方箋では、この街は変えられないのです。

だからこそ、小樽ならではの道筋を、市民の皆さんと一緒に描いていく必要があると思っています。

坂の街・小樽だからこその可能性

では、小樽ではどんな再生可能エネルギーの活用が考えられるでしょうか。私は、次のような可能性に注目しています。

1. 寒冷地仕様の高断熱・高気密住宅への支援

実は、最も効果的な「省エネ」は、新しいエネルギーを導入することではなく、熱を逃がさない住まいをつくることです。断熱改修をすれば、同じ暖房でも室温が数度変わり、灯油の消費量を3〜4割減らせるケースもあります。市として改修費用の補助メニューを拡充し、特に高齢者世帯が利用しやすい制度にしていくこと。これは、すぐにでも取り組める現実的な一歩です。

2. 太陽光と蓄電池の賢い組み合わせ

「冬に雪が積もるから無理」とよく言われます。確かに真冬の発電量は落ちます。しかし、春から秋にかけての発電で年間の電気代をまかない、蓄電池と組み合わせることで、災害時の備えにもなります。小樽は過去にも停電で苦しんだ経験があります。エネルギーの地産地消は、防災の視点からも大きな意味を持つのです。

3. 海と地中の熱を使う「ヒートポンプ」

港町・小樽には、海水温という安定した熱源があります。また、地中熱は一年を通してほぼ一定の温度を保ちます。こうした自然の熱を汲み上げて暖房に使うヒートポンプ技術は、北海道各地で実証が進んでいます。公共施設から段階的に導入し、効果を検証していく価値は十分にあると私は考えています。

4. 木質バイオマスという選択肢

後志地域には豊かな森林資源があります。間伐材などを活用した木質ペレットストーブは、地域内でエネルギーを循環させる仕組みづくりにもつながります。

市民一人ひとりができること、行政がすべきこと

環境問題というと、どうしても「我慢」や「負担」のイメージがつきまといます。でも私は、ゼロカーボンへの道は、暮らしを豊かにする道であってほしいと願っています。

私が議会で訴え続けていきたいこと

  • 高齢者・低所得世帯への断熱改修補助の拡充
  • 公共施設への再エネ導入を、計画的かつ透明性のある形で
  • 市内事業者と連携した「省エネ診断」の無料化
  • 子どもたちへの環境教育と、学校施設の省エネ化
  • 歴史的建造物の景観を守りながら両立できる手法の研究

特に、小樽運河をはじめとする歴史的景観は、この街の宝物です。「環境のため」といって、ソーラーパネルで景観を台無しにしてしまっては本末転倒。小樽らしさを守りながら、どう脱炭素を進めるか——ここに知恵と工夫が求められています。

百年先の小樽へ、今できる選択を

私はよく、運河沿いを一人で歩きます。石造倉庫群を見るたびに、百年以上前の人々が「百年後の小樽」を想像しながらこの街を築いたのだろうかと考えます。そして、今を生きる私たちもまた、百年後の小樽に何を残せるのかを問われているのだと感じるのです。

冬の夜、どの家の窓からも暖かな灯りがもれている。暖房費の心配で眠れない方がいない。子どもたちが「小樽に生まれてよかった」と胸を張って言える。そんな街を次の世代に手渡したい。これが、私の政治家としての、そして一人の小樽市民としての、素直な願いです。

ゼロカーボンは、遠い未来の難しい話ではありません。今年の冬、来年の冬、あなたの家の暖房をどうするか、その選択の積み重ねなのだと思います。

どうか皆さんのお声を聞かせてください。「うちの地域ではこんな工夫をしている」「こういう制度があれば助かる」——そんな生活者の視点こそが、小樽の未来をかたちづくる原動力です。この街を愛する一人として、私もまた皆さんと一緒に考え、動いていきたいと思います。

小樽の冬が、誰にとっても温かいものでありますように。

中村よしひろ

中村よしひろ

小樽市議会議員

1972年小樽市生まれ。市民の声を市政に届けるため、日々議会活動と地域活動に取り組む。小樽の歴史・文化・自然を愛し、住み続けたいまちづくりを目指している。