統廃合という言葉の重さ
「中村さん、うちの子が通っている学校、本当になくなるんですか?」——先日、朝市のそばで買い物をしていた私に、小さなお子さんを連れたお母さんがそう声をかけてくださいました。手には買ったばかりのホッケ。穏やかな表情の中に、確かな不安が揺れていました。
学校統廃合。この四文字が持つ重さを、私はこの数年、嫌というほど感じています。行政の文書で見れば「再編」「適正配置」といった事務的な言葉で語られますが、その一つひとつの背景には、子どもたちの通学路があり、朝のあいさつがあり、運動会の歓声があり、卒業式の涙があるのです。
今日はこの問題について、小樽を愛する一人の市議として、私なりの思いを率直にお話しさせてください。
数字が語る小樽の現実
まず、私たちが向き合わなければならない現実があります。小樽市の人口は、ピーク時の昭和39年には約20万7千人を数えました。それが今では約10万6千人。実に半分です。そして、15歳未満の子どもの数は、市全体で約7,000人まで減少しました。
市内の小中学校も、かつては50校を超えていた時代がありました。それが今では、小学校・中学校を合わせても大きく数を減らしています。一つのクラスが数名、学年に一クラスしかない、という学校も珍しくありません。
少人数学級には、きめ細やかな指導ができるという大きな良さがあります。一方で、「同級生が3人しかいなくて、6年間同じ顔ぶれ」という環境が、子どもにとって最適かどうかは、立ち止まって考える必要があるのです。
これは、誰かの責任ではありません。産業構造の変化、少子化、全国の地方都市が共通して抱える課題です。しかし、現実から目を背けることもまた、無責任だと私は思うのです。
子どもの学びにとって本当に大切なこと
では、子どもたちの学びにとって、何が一番大切なのでしょうか。
私はこの数年、市内の多くの学校を訪ね、校長先生や現場の教員、PTAの方々、そして子どもたち自身の声を聞いてきました。そこで気づいたのは、どの立場の方も「子どものために」という一点では完全に一致している、ということです。
ある中学校の先生がこう話してくれました。
「少人数は確かに丁寧に見られます。でも、合唱コンクールでパートが組めなかったり、球技で試合形式の練習ができなかったり、本当は体験させてあげたいことができないんです」
一方で、小規模校に通わせているお父さんは、こうもおっしゃいました。
「うちの子は内気な性格だけど、少人数だから先生がしっかり見てくれて、自信がついてきた。大きな学校に行ったら、きっと埋もれてしまう」
どちらも真実です。どちらも、子を思う本物の声です。だからこそ、「統廃合は是か非か」という二者択一ではなく、一つひとつの地域、一つひとつの学校の事情に即して、丁寧に議論を重ねることこそが、私たち大人の責任だと考えています。
学校は地域の『心臓』でもある
そして、学校という場所は、子どもたちだけのものではありません。
小樽の学校の多くは、地域の避難所であり、お祭りの会場であり、高齢者サロンの場であり、何より「あの学校の卒業生だ」という地域のアイデンティティそのものです。学校がなくなるということは、地域から灯りが一つ消える、ということでもあるのです。
私が子どもの頃、冬の夕暮れに雪の坂道を下りてくると、校舎の窓からもれる明かりがとても暖かく見えたのを覚えています。あの光景は、小樽という町の原風景の一つです。
だからこそ、仮に統合という結論に至る場合でも、「跡地をどうするのか」「地域の集まる場をどう残すのか」という議論を、学校の議論と同時に進めなければならないと、私は強く思っています。閉校してから何年も空き校舎のまま、では、地域の心が折れてしまうのです。
私が考える三つの提案
その上で、私が市議会で訴え続けていること、これから訴えていきたいことを、三つに絞ってお伝えします。
一つ目:保護者と地域への『情報公開の徹底』
統廃合の議論は、どうしても「決まってから説明される」になりがちです。そうではなく、児童数の推計、校舎の老朽化状況、通学距離のシミュレーションなど、判断の材料となるデータを早い段階から包み隠さず共有すること。これなくして、本当の対話は成り立ちません。
二つ目:通学支援の充実
小樽は坂の町です。冬は吹雪きます。統合によって通学距離が延びる子には、スクールバス、通学タクシー、冬季限定の送迎など、その家庭に過度な負担がかからない具体的な仕組みを、統合と同時にスタートさせるべきです。「あとで検討します」では遅いのです。
三つ目:閉校になる校舎・跡地の『地域活用プラン』を先に描く
コミュニティセンター、子育て支援拠点、観光と連動した体験施設——使い道は地域によって様々でしょう。大切なのは、その地域の方々が主役になって考えられる場を、市が責任を持って用意することです。
坂の町で、次の世代へ手渡すもの
私はなぜ、小樽という町をこれほど愛しているのでしょうか。
海があり、山があり、歴史ある石造倉庫があり、何より、坂道で出会う人が「寒いねぇ」と笑ってくれる温かさがある。この町で生まれ育ち、この町で政治に携わらせていただいている幸せを、日々かみしめています。
学校統廃合の問題は、つらい議論です。できることなら、どの学校も残したい。それが正直な気持ちです。けれど、私たちが本当に次の世代に手渡したいのは、「建物としての学校」でしょうか。それとも、「子どもたちがいきいきと学び、地域とつながって育っていける環境」でしょうか。
残すべきものは、必ず残す。変えるべきものは、知恵を出し合って変えていく。その判断を、市民のみなさんと一緒に、丁寧に、諦めずに積み重ねていきたい。それが、小樽で育てていただいた私の、小さな恩返しだと思っています。
どうかみなさん、お住まいの地域の学校のこと、PTAの集まり、町内会の会合、どんな場でも結構です。声を上げてください。その声を受け止めて議会に届けるのが、私の仕事です。
小樽の子どもたちの笑顔のために。この坂の町の灯りを、消さないために。これからも、歩き続けます。
