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環境・景観

灯油タンクから考えるゼロカーボン小樽の冬

灯油タンクのある風景から考える

先日、朝里のご高齢のお宅を訪ねたときのことです。玄関先に置かれた青い灯油タンクを見ながら、ご主人がぽつりとおっしゃいました。「中村さん、今年の冬はどこまで値段が上がるんだろうねぇ」。私は言葉に詰まりました。

小樽で暮らす私たちにとって、灯油タンクのある風景は、ごく当たり前の冬のかたちです。石炭ストーブからFF式ファンヒーターへと移り変わっても、「冬を越す」という営みの重みは、昔も今も変わりません。けれど、その「当たり前」が、いま静かに揺らいでいます。

燃料価格の高騰、気候変動、そして人口減少。これらが絡み合うなかで、私たちの冬の暮らしをどう守っていくのか。今回は「ゼロカーボン小樽」というテーマで、少し長めに、みなさんと一緒に考えてみたいのです。

小樽の冬、暖房費という切実な現実

北海道の一般家庭における年間の灯油使用量は、全国平均の約3倍と言われています。小樽は坂のまち、そして海からの風が吹き抜けるまちですから、体感的にはさらに厳しいと感じている方も多いのではないでしょうか。

私の実感として、ここ数年で灯油代が年間数万円単位で上がった、というお声を本当にたくさんいただきます。特に年金で暮らす一人暮らしのお年寄りにとって、冬の暖房費は「命に関わる出費」です。

「暖房を一部屋だけに絞っている」「夜は厚着をして早く布団に入る」——こうした我慢が、ヒートショックや健康悪化につながってはいないか。環境政策は、実は福祉政策でもある。私はそう考えています。

ゼロカーボンという言葉を聞くと、どこか遠い国際会議の話のように感じるかもしれません。でも小樽にとっては、目の前の灯油タンクと、ご高齢のご夫婦の暮らしに、まっすぐ繋がっている話なのです。

ゼロカーボンって、むずかしい話ですか?

「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」。国も北海道も、そして小樽市も、この目標を掲げています。小樽市は2022年に「ゼロカーボンシティ」を表明しました。

ただ、正直に申し上げます。目標を掲げることと、実際にまちを変えていくことの間には、まだまだ大きな距離があります。

「実質ゼロ」ってどういうこと?

専門用語を少し噛み砕くと、「排出した分を、森林の吸収や再生可能エネルギーへの切り替えで差し引きゼロにする」ということです。つまり、ゼロにする方法は一つではありません。

  • 家庭や事業所での省エネ(断熱・高効率機器)
  • 太陽光や地中熱など再エネへの切り替え
  • 森林の保全と活用
  • 公共交通や徒歩で暮らせるまちづくり

どれも、小樽の暮らしや景観と、しっかり結びついているテーマだと思いませんか。

小樽だからこそできる再エネ活用

私が議会でも繰り返し提案しているのは、「小樽の地形と歴史に合った再エネ活用」です。他のまちの真似ではなく、小樽らしい方法を探りたい。

一つめ、地中熱ヒートポンプ

地面の下は、冬でも年間を通じて10℃前後の安定した温度です。この熱を暖房に使う技術が「地中熱ヒートポンプ」です。初期費用はかかりますが、灯油代を大きく減らせます。寒冷地である小樽こそ、本来は最も相性が良い技術のはずです。公共施設への率先導入と、家庭への導入補助を、もう一段強めるべきだと考えています。

二つめ、太陽光と蓄電池

「小樽は雪が多いから太陽光は不向き」と言われてきました。確かに真冬の発電量は限られます。しかし春から秋にかけての発電量は決して少なくなく、災害時の非常用電源としての価値も見逃せません。胆振東部地震のブラックアウトを、私たちは忘れてはいけないと思うのです。

三つめ、木質バイオマス

小樽の背後には豊かな山林があります。森林の手入れで出る間伐材を、ペレットやチップにして暖房に使う。地元の林業を支え、山を守り、CO₂も削減する。この「循環」こそ、小樽が目指すべき姿ではないでしょうか。

歴史的建造物と省エネは両立できるか

環境政策を語るとき、小樽で必ずぶつかる壁があります。それは「歴史的景観との両立」です。

運河沿いの石造倉庫、堺町の木骨石造の建物、色内の銀行建築——これらは小樽の宝です。しかし正直に言えば、断熱性能という点では現代の基準から見ると厳しいものがあります。ソーラーパネルを屋根に載せれば景観が損なわれ、サッシを替えればデザインが変わってしまう。

では、諦めるのか。私はそうは思いません。

内窓の設置、内断熱の工夫、見えない場所への設備配置——他のまちでも、歴史的建造物を活かしながら省エネを進めた先例があります。小樽でも、所有者の方々と丁寧に対話しながら、「景観を守りながら光熱費を下げる」モデルケースを作っていきたい。

私が小樽を好きな理由の一つは、この「古いものを捨てずに、工夫して使い続けてきた」まちの気質にあります。石造倉庫をカフェに、銀行を美術館に。小樽の人は、ずっとそうやってきました。環境問題にも、同じ知恵が必ず活きるはずです。

小さな一歩を、みんなで

ゼロカーボンというと、どうしても「大きな政策」や「大企業の取り組み」の話になりがちです。でも、私が市議会議員として大切にしたいのは、小樽の一軒一軒、お一人おひとりの暮らしから出発する視点です。

市としてできること、私がこれから力を入れて取り組みたいことを、三つに整理してみました。

  • 断熱改修への支援強化——内窓や断熱材への補助を、使いやすい制度に。暖房費を下げることが、最大の環境対策です。
  • 再エネ導入のモデル地区——地中熱、太陽光、蓄電池を組み合わせた公共施設や公営住宅をつくり、「見える化」する。
  • 市民が学び、話し合える場づくり——専門家だけで決めず、町会やPTA、商店街と一緒に考える機会を増やす。

最後に、少し個人的なことを書かせてください。私は夜の小樽が好きです。坂を下りながら見下ろす港の灯り、雪が音を吸い込んで静かになる住宅街、湯気の立つラーメン屋の窓。この風景は、誰かが暖房を焚き、電気を灯し、エネルギーを使って成り立っています。

だからこそ、そのエネルギーを「地元で、無理なく、未来につながる形で」まかなえるまちにしたい。それが、私なりの小樽への恩返しの一つだと思っています。

みなさんのお宅の冬は、今年どうでしたか。灯油タンクの前で、暖房のきいた居間で、ふと感じたことがあれば、ぜひ聞かせてください。小さな声から、まちは少しずつ変わっていくと、私は信じています。

中村よしひろ

中村よしひろ

小樽市議会議員

1972年小樽市生まれ。市民の声を市政に届けるため、日々議会活動と地域活動に取り組む。小樽の歴史・文化・自然を愛し、住み続けたいまちづくりを目指している。